『分かりやすいイラストの設計法』説明的な表現のコントロールを考える

本記事は、分かりやすく伝えるイラストを「描く・依頼する・ディレクションする」立場の方に向けて考え方をまとめたものです。

分かりやすさの基準「説明的なイラスト」を考える

「説明的なイラスト」とは、「見るだけで内容が理解できること」を最優先に設計されたイラストを指します。 「何が・どのような構造で・どう関係しているか」を正確に伝えることを目的としており、図解、マニュアル、インフォグラフィックなどで機能するものです。

Point 1説明度には「段階」がある

「説明的か否か」は、0か100かで決まるものではなく、そこにはグラデーション(段階)があります。

本記事ではまず、誰が見ても同じ内容を読み取れる「完全に説明的なイラスト(図解)」の作り方を解説します。 そこを起点にして、目的に応じて説明レベルを下げたり、表現を変形させたりする。そう捉えることで、「説明的であること」を、表現をコントロールするための「基準」として扱えるようになります。

Point 2分かりやすさを「言語化しやすいか」で測る

様々な表現がある中で、「視覚的に早く、正しく伝える」ことを目的とするなら、最も効率的な視覚情報は「文字」ではないでしょうか。言葉と文法で構成される文章は、解釈のブレが少ないからです。つまり、イラストは文字(言語)に近づくほど分かりやすくなる。 「どれだけ言葉に戻しやすいか」は、そのイラストの説明力を判断する一つの目安になります。

説明的なイラストの作り方

分かりやすく伝える「説明的なイラスト」の制作は、大きく2つの工程に分けられます。ここには「絵の上手さ」は関係ありませんので、イラストのディレクションに悩んでいる方にもお読みいただけたら嬉しいです。

Step 1伝わるイラストの「情報整理」

はじめに、情報の整理を行います。 情報整理とは、デザインでよく使われる言葉で、「関連する情報を近くに配置し、重要度で強弱をつけ、伝わる順番に並べ替えていく」作業です。これをイラストの設計図として最初に作ることが、伝わるイラスト制作の最大のポイントです。

1. イラストで伝えたい内容を要約する

まず、伝えたい内容を短い文章でまとめます。X(旧Twitter)でつぶやける140〜150文字程度に収めると、情報の輪郭がはっきりし、イラスト化への道筋が見えやすくなります。

2. 要約文からキーワードを抽出する

要約文をもとに、「人・モノ・状態・変化」など、図の中で役割を持つ要素をキーワードとして拾い出します。

3. 図を描きながら情報を整理する

抽出したキーワードをラフな図として配置し、以下の点を確認しながら整理します。

  • 関係性の整理: キーワード同士を「入れ子」や「矢印」でつないでみる
  • 優先順位の決定: どれがメインで、どれが補足かを明確にする
  • 構造の判断: 大枠をひとまとめにできるか、分けるべきか

これらを踏まえ、関連情報をグルーピングし、重要度に応じた強弱をつけます。視線がスムーズに流れるよう、配置・大きさ・向きを調整して構造を作りましょう。
特に3つ目の「構造の判断」は重要です。時間軸や場所が2箇所以上にまたがり、ひとまとめにできなかった場合、イラスト化の難易度は上がります。この点については、下の例で詳しく説明します。

情報整理のイメージとポイント

イメージしやすいように、童謡「森のくまさん」の1番と2番を題材に情報整理をしてみます。

あるひ もりのなか くまさんに であった
はなさくもりのみち くまさんにであった

作詞:馬場祥弘 作曲:アメリカ民謡.

1番で描かれているのは、「森の中でくまに出会った」という出来事です。 登場人物は「くま」と「私(主観)」。場所は「ある日の森の道」。起きていることは一つだけで、時間の流れも分岐していません。この段階では、比較的シンプルに一枚絵として整理できます。

くまさんの いうことにゃ おじょうさん おにげなさい
すたこらさっさっさのさ すたこらさっさっさのさ

作詞:馬場祥弘 作曲:アメリカ民謡.

2番は少し複雑になります。「くまの話を聞くお嬢さん」と、「その場から逃げるお嬢さん」という、異なる状態が時間の流れの中で発生するからです。 この場合、コマを割って画面を分割するといった方法が一般的な解決策になります。一枚絵に収めることも不可能ではありませんが、表現上の工夫が必要になります。

初めの段階でこのように情報整理をしておくと、「これは同時に起きているのか」「時間が流れているのか」といった構造上の課題に、あらかじめ気づくことができます。

特にイラストレーターさんへ依頼する場合、こうした「時間の流れ」を含む表現は認識のズレが起きやすいため、打ち合わせの段階で丁寧にすり合わせるよう意識してみてください。

Step 2キーワードの「記号化」

次に行うのは、キーワードをイラストに変えていく工程です。洗い出した要素(人・モノ・場所・状態・変化)を、一目でわかる形に置き換えていきます。

女の子のイラスト
画像 : gemini生成

「記号化」と聞くと、トイレのマークのようなピクトグラムを想像しがちですが、ここではもっと気楽に、子どもが描く「絵記号」をイメージしてください。

イラストで伝える ≠ 絵が上手い

普段イラストを描くことがない方が、業務の中でイラストの発注を担当し、「何をどう伝えればよいのかわからない」と感じているケースもよく聞かれます。ただし、伝わるかどうかは、絵の上手さだけで決まるものではありません。

重要なのは、技術的な巧拙ではなく、「どうすれば親切か」を考えること。あわせて、「リアルに描くことが正解」と決めつけない姿勢も大切です。そのため、最初の段階では、完成形を想像しようとするよりも、絵記号のような単純な形でイメージしてみることをおすすめします。

円のまわりに放射状の線を描いた「太陽」は、絵記号の定番です。 同様に、四角や三角を組み合わせれば「家」になり、丸と線を足せば「花」にもなります。ここでは、対象物をよく観察してリアルに描くことは重要ではありません。「〇〇と言われたら、こんな形」という、多くの人が頭の中で共有している連想を、そのまま形にしていきます。

小さな子どもが絵を描くとき、目の前の現実よりも頭の中のイメージをそのまま描こうとします。そのように「意味」を最優先にして単純な形へ落とし込んでいく。 そのくらいの感覚で記号化していくと、結果的に誰にでも伝わりやすい形になります。

絵記号は、家一般・花一般をあらわします。個別の家・花ではなくその種類全般を典型化した形です。なので絵記号の花は、ほんとうはヒマワリでもチューリップでもないのです。

参考図書 : 皆元二三江(著) 「お絵かき」の想像力

記号化は連想数がポイント

例えば、「アイデア」を記号化する際、「脳みそ」を描くのは間違いではありませんが、少し生々しい印象になり、掲載箇所によっては使いづらい場合があります。 そんな時、「アイデア = ひらめき = 電球」や、さらに抽象化して「光」を描くといった選択肢を持てるかが重要です。意味を保ったまま、形をずらしていくイメージです。

一つのキーワードから連想を広げ、抽象化レベルとブランディングに沿った記号を選んでいく。その「引き出しの多さ」が、説明的なイラストにおける腕の見せ所になります。

説明的なイラストを起点に、表現を変形させていく

イラストのディレクションでは、「説明的すぎる(堅苦しい)」という理由で、説明度を下げる調整を行うことがあります。 ここでは、説明的なイラストを起点に、どのように表現を変形させていけるか、そのパターンを整理します。

俵万智さんの『サラダ記念日』の一節を例に考えていきます。

「この味がいいね」と君が言ったから
七月六日はサラダ記念日

引用 : 俵万智「サラダ記念日」

情報を整理してみるとこんな感じでしょうか。

今回の図の整理では、詩の中に書かれていない「君がサラダを食べた事」と主人公の「君の一言で記念日を作ってしまう心の動き」も加えて、より言語化しやすい土台を作っています。ここから表現パターンを展開していくと…

Pattern A正確に伝わる「図解的なイラスト」

短歌の内容をそのまま言葉として整理し、「サラダ」「君の発言」「日付が記念日になる」という要素を記号化して配置します。 誰が、いつ、何をきっかけに、どう感じたのかが明確で、読み手の解釈がほとんどブレません。最も情報密度が高く、安定した状態です。

向いている用途

  • マニュアル・取扱説明書: 操作手順や構造を誤解なく伝えたいとき
  • 教材・図鑑: 学習内容を正確に理解させたいとき
  • インフォグラフィック: データや事実関係を整理して見せたいとき

Pattern B印象に残る「誇張的なイラスト」

次に、記号の一部をあえて強調します。 たとえば、「記念日」を大きな入れ子として再構成して全体を括ったり、「サラダ」を極端に大きく描いて他の要素の重要度を下げることで、視線を一点に集めます。 情報の網羅性は下がりますが、代わりに強い印象を残すことができる、イラストならではの表現です。

向いている用途

  • Web記事のサムネイル・バナー: 一目で興味を惹きつける必要があるとき
  • プレゼン資料の表紙: 最も伝えたいメッセージを強調したいとき
  • 広告ビジュアル: 商品の特徴やメリットをストレートに訴求したいとき

Pattern Cイメージしやすい「シーンイラスト」

さらに、前後の状況や空気感を補い、ドラマのワンシーンのように描きます。 正確な説明というより、「こんな場面だったのではないか」と想像を促す表現です。

「それなら写真でもいいのでは?」と思える表現になりますが、イラストにすることで、読み手に「想像させる余地」を残すことができます。その点で、写真とは違った効果的な方法とも言えます。

向いている用途

  • Webサイト(サービス紹介): 利用シーンやユーザー体験を伝えたいとき
  • 雑誌・コラムの挿絵: 記事の内容に共感を持たせたいとき
  • 絵コンテ・ストーリーボード: 流れや状況を共有したいとき

Pattern D奥行きを生む「世界観イラスト」

最後に、短歌には直接書かれていない背景や文脈まで想像して描くと、それは世界観の表現になります。 解釈は読み手に委ねられ、説明としての役割はほとんど残りません。しかし、コピー(元の文章)と組み合わせることで、イラスト単体では生まれない広がりや余韻をつくることができます。

向いている用途

  • 書籍の装画(カバーイラスト): 作品の空気感を伝え、手に取らせたいとき
  • ブランドポスター: 機能説明ではなく、ブランドの姿勢や美意識を伝えたいとき
  • メインビジュアル: キャッチコピーとセットで、強いメッセージを作りたいとき

おわりに

伝えたい内容を整理し、簡単な図にしておけば、「伝わらない」という事態はほとんど防げます。 まずは文字だけで構造を整理し、そこから表現の展開を考える。この順番で進めるだけで、イラスト制作はぐっとスムーズになります。

情報を分かりやすく伝えるイラストや図解についてお悩みの際は、ぜひ可視化研究所までご相談ください。

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