「デザインのためのイラスト評価シート」を用いたアートディレクション

「見えない評価」を整理する

「複雑な情報をわかりやすく要約する」 「やわらかいタッチで親しみやすくする」

イラストレーションには、こうした「目に見える役割」がたくさんあります。直感的に伝わる、雰囲気が良くなる。もちろん、それは素晴らしい効果です。

ただ、可視化研究所として「デザインとしてのイラスト」に向き合うとき、もう少し奥にある「目に見えない役割」についても深く考えるようにしています。

ブランドの信頼を守る配慮、他とは違う独自の情報の密度、そして長く使い続けるためのデータ設計。これらはパッと見ただけでは分かりにくいですが、ビジネスの現場でイラストが正しく機能するために、実はとても大切な要素です。

日々の制作やアートディレクションの現場で、感覚的になりがちな「良し悪し」をどう整理しているか。そのために作成した「評価シート」をベースに、デザインの説得力を高めるための視点を共有します。

1. イラストの価値を可視化する「7つの視点」

実際にプロジェクトで使用している評価シートです。 イラストに必要な要素を7つの視点に分け、レーダーチャートに整理しました。

このシートの目的は、採点ではありません。 「なんとなく良い」「ちょっと違う」といった曖昧な感覚を、「目的に対してどう機能しているか」という言葉に置き換え、プロジェクトに関わる全員で合意形成を行うためです。

このチャートの外枠を見ると、4つの色でカテゴリが分かれているのが分かります。 「必須項目」「公式感」「運用しやすさ」「イラストならでは」。すべての項目で満点を取る必要はありません。大切なのは、この4つの要素を「目的」に合わせてどうバランスさせるかという視点です。

1. トーン&マナー準拠

[色や線がブランディングに沿っているか] 企業の顔として、長期的に使用できる品質かを確認します。

  • コーポレートカラーを軸に展開した色彩設計になっているか
  • 線の太さや角の処理(ロゴの形状に合わせるのが一般的)
  • 既存のデザインエレメント(記号など)を踏襲しているか
  • 一過性のトレンドに寄りすぎず、数年後も古びずに使えるか

2. ターゲット最適絵柄

[ユーザー層に適したデフォルメレベルか] 「誰に伝えたいか」によって、適切な絵柄の抽象度は変わります。

  • ターゲット(学生、ビジネス層など)に合わせた頭身バランスか
  • 嗜好性に合わせた情報の密度(シンプルか、書き込み重視か)

3. 汎用 / 展開性

[広告やグッズなどに流用可能か] 一度きりの使用ではなく、「資産」として運用できる設計になっているかを見ます。

  • モノトーン印刷(1色刷り)でも視認性が保たれるか
  • イラストパーツに汎用性があるか(要素を分解してWebのあしらい等に使えるか)
  • 二次利用など、権利関係の理解とクリアランス
  • スマホのサムネイルなど、極小サイズに縮小しても意味が伝わるか
  • 属人性を排除し、担当が変わってもトーンを引き継げる再現性があるか

4. 印象的なシンボル

[イラストが「らしさ」の象徴になっているか] 認知を広げるためのフックとなる要素です。

  • 「このイラスト=このサービス」と認知される状態を目指す
  • ワンフレーズのメッセージや、企業キャラクターを含んでいるか

5. 特有の情報

[周囲の情報とは重複しないものが描かれているか] ここがデザインとしての価値を左右する重要項目です。

  • テキストとは重複しない、情報の「奥行き」としての役割を持っているか
  • イラスト同士が関連性を持ち、ストーリーなどが生まれているか

6. ユーモア

[感情を揺さぶる仕掛けがあるか] 正しさだけでなく、人の心を動かすためのスパイスです。

  • 視覚的な「引っ掛かり」をつくる工夫があるか
  • 「楽しませたい」や「怖がらせたい」などの意図した印象を与えられるか
  • 弄り方は倫理的に適正か(容姿や属性を揶揄する表現になっていないか)

7. 色弱 / 欠損 / 表現配慮

[誤解が起きないよう十分に配慮されているか] 公共性と安全性を担保するための守りの項目です。

  • 思想を含む記号と類似していないか(赤十字マーク、政治的意匠など)
  • コントラスト比の確認(色覚特性への配慮)
  • 指、耳、鼻、眉毛などを(意図なく)省略せずに描いているか

2. 柔軟に形を変える:目的別のチャートモデル

このシートの特徴は、「すべての項目で満点を目指さなくていい」という点です。 案件の目的や解決したい課題によって、理想とする形は柔軟に変わります。

ただし、イラストレーターに新規で依頼する以上、「トーン&マナー準拠」と「ターゲット最適絵柄」はブランディングに大きく影響するため、クリアしないと勿体ない要素です。

この2つを土台として確保した上で、その他の項目をどう配分し、どの方向に尖らせるか。 イラスト制作依頼におけるバランス調整の例を、自社コンテンツより、2つのパターンで解説します。

ケースA運営しやすさ重視のイラストブランディング

1. トーン&マナー準拠 (5)

「お散歩」がテーマのサービスらしく、街並みはカラフルで賑やかに。 そこにロゴカラーの「赤」をアクセントとして効かせています。 街並みのトーンを赤よりも抑え気味にすることで、書き込みの多いビジュアルでも視線が散らばらず、見てほしいポイントが明確になるよう調整しています。

2. ターゲット最適絵柄 (5)

ターゲットは20代〜40代の女性が中心ですが、老若男女に愛されるサイトを目指しています。そのため好みの分かれる人間は完全にデフォルメして小さく描き、代わりに動物(オコジョ)をメインキャラクターに立てることで、幅広い層に親しみを持ってもらえるよう設計しています。

3. 汎用 / 展開性 (5)

メインビジュアルとして使用している街並みイラストは、分解・再構成が可能なデータ設計としています。そのため、名刺、ポスター、Webサイトの下層ページなどへ部分的に転用でき、二次制作時の工数削減につながります。
また、将来的なグッズ展開も想定し、キャラクターが持つトートバッグは、印刷・製造しやすいシンプルな形状としています。

4. 印象的なシンボル (5)

オコジョのキャラクターは、Vtuber制作で用いられるアニメーションソフトを使用し、柔らかくしなやかな動きで表現しています。
サイト訪問時の第一印象として「可愛い」「親しみやすい」と感じてもらうことを意図し、視覚的なフックをつくることで、同業他社との差別化を図っています。

5. 特有の情報 (3)

モチーフ選びは率直で、「街の工場直売店を探しに散歩する」というテーマを、過度なひねりを加えずに描いています。独自性を強く打ち出すというよりも、全体の分かりやすさとビジュアルとしての明るい印象を優先した設計としています。

6. ユーモア (4)

「工場直売 → コウジョウ → オコジョ」といった言葉遊びや、食品そのものが店舗になっている表現など、発見すると少し楽しい仕掛けをイラスト内に組み込んでいます。
一見してすべてが伝わる構成ではなく、見る人が気づいた瞬間に軽い納得や楽しさが生まれる設計としています。
また、キャラクターの愛らしさ自体も感情を動かすフックとして機能し、全体の印象をやわらかくする役割を担っています。

7. 色弱 / 欠損 / 表現配慮 (3)

人物表現はピクトグラムに近いデフォルメレベルとしているため、身体欠損などの解釈が問題になる造形ではありません。一方で、配色はキャラクターの輪郭と背景のコントラストが弱くなる箇所がありますが、アニメーションによる動きを加えることで、視認のしやすさを一定程度補完しています。

ケースBキャラクターナビゲーションで一貫したメッセージを保つ

1. トーン&マナー準拠 (5)

コーポレートカラーである紺色をベースにシンプルな色数で展開しています。

2. ターゲット最適絵柄 (4)

ターゲットは30〜60代のビジネス層を想定しています。フラットで過度に装飾しない描き込み量は、情報を読み取ることを前提とした層に適した設計としています。
一方で、モチーフにタラのキャラクターを用いているため、受け取り方によってはやや幼い印象を与える可能性はありますが、全体のトーンや文脈によってバランスを取っています。

3. 汎用 / 展開性 (5)

共通のキャラクターを継続的に登場させることで、各コンテンツに一貫性が生まれ、全体としてのまとまりやストーリー性を持たせています。キャラクターを軸に構成することで、媒体やテーマが変わっても文脈を引き継ぎやすく、シリーズ展開や再利用のしやすさにつながっています。

4. 印象的なシンボル (5)

表紙から導入、本文、終わりに至るまで一貫してキャラクターが登場する構成とし、「タラの図鑑」という印象を強く定着させています。魚という人外モチーフであることにより、登場頻度が高くてもくどさが生まれにくく、シンボルとして自然に受け入れられる点も特徴です。

5. 特有の情報 (4)

イラスト素材自体は説明的な役割を担うものが中心ですが、キャラクターそのものが一つのメッセージを内包する設計となっています。そのため、個々のカットは機能的でありながら、キャラクターが登場することで文脈や意図が補完され、全体として伝達力が高まっています。

6. ユーモア (3)

ダジャレを起点としたキャラクター設定ではありますが、笑いを強く狙ったユーモア表現ではありません。
コンテンツ自体は、日常の「あるある」と事業内容を結びつける構造によって面白さを生んでいますが、イラストの役割としては、あくまで説明の補助と親しみやすさの付与に重きを置いています。

7. 色弱 / 欠損 / 表現配慮 (4)

全体としてコントラストに大きな問題はなく、白と黄色の組み合わせのみ判別性がやや低くなる可能性がありますが、ヒレなどの要素に濃色の線を加えることで視認性を補っています。
本コンテンツは弊社の会社案内資料の一部であるため、欠損表現への配慮よりも、キャラクターとしての分かりやすさやデフォルメ表現を優先した設計としています。

3.イラストディレクションは、目的と形を結ぶもの

こうしたイラストの見えない影響範囲に基準を持つことで、イラストディレクションの質、そしてクリエイターへの発注指示書の書き方も変わります。

ビジネスのためのイラストは、単なる装飾ではありません。「わかりやすさ」や「親しみやすさ」を出すためだけのアイテムとして消費してしまうのは、勿体ないことです。機能や信頼、独自性といった様々な要素と結びつき、網のように企業のアイデンティティを包み込むこと。 この見えない価値を意図的に設計する作業が、アートディレクションの役割です。

4. デザインのためのイラスト制作
お気軽にご相談ください。

絵を描くプロセスを通じて、情報を整理し、設計すること。 デザインとしてのイラストレーションに向き合うとき、可視化研究所ではそんな意識を大切にしています。

今回ご紹介したような「目に見えない評価軸」を用いながら、どうすればお客様の想いが「分かる」形になるのか。 そのための「伝え方」の実験として、「月刊インフォグラフィック」の発信や「シャッフルフォント」の開発、メディア運営やフィールドワークなどの自社プロジェクトも続けています。

もし、今のイラストの在り方や、基準作りに迷いがあれば、お声がけください。 貴社専用のイラストガイドライン策定から実制作まで一貫してサポートいたします。

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